心地よい日差しと風が、身体を元気にさせてくれる季節になりました。皆さま、いかがお少しでしょうか。

もうすぐ、日本高血圧学会による『高血圧予防と診療のNew Horizon2025』高血圧予防と診療のNewHorizon 2025が開催されます。この機会に、私が大学院でも研究のメインテーマであった家庭血圧に関してお話したいと思います。

まず、血圧の目標は??

日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2019」では、一般成人の血圧を診察室血圧と家庭血圧で以下のように分類しています。

分類 診察室血圧(mmHg) 家庭血圧(mmHg)
正常血圧  <120 /  <80  <115 /  <75
正常高値血圧  120–129 /  <80  115–124 /  <75
高値血圧  130–139 /  80–89  125–134 /  75–84
Ⅰ度高血圧  140–159 /  90–99  135–144 /  85–89
Ⅱ度高血圧  160–179 /  100–109  145–159 /  90–99
Ⅲ度高血圧  ≥180 /  ≥110  ≥160 /  ≥100
(孤立性)収縮期高血圧  ≥140 /  <90  ≥135 / <85

                                (収縮期血圧 / 拡張期血圧)

* 脳心血管イベント予防の観点から、糖尿病や慢性腎臓病、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)など高リスク例を含む75歳未満の患者では、診察室血圧< 130/80、家庭血圧< 125/75mmHg(従来より厳格化されました)とすることが推奨されています。

* 一方、75歳以上の高齢者では、一般に診察室血圧140/90mmHg未満(家庭血圧135/85未満)を目標とします。

診察室血圧?家庭血圧?

🌸診察室血圧・・・医療機関の診察室で、医師や看護師が測定する血圧。

 → 測定時の緊張やストレスにより、血圧が高めに出ることがある。

🌸家庭血圧・・自宅で、患者自身が血圧計を用いて測定する血圧。

 → リラックスした状態で測定できるため、より日常に近い血圧値が得られる。

正しい姿勢

 ・リラックスした状態で座る椅子の背に軽くもたれ、足を組まずに床にしっかりとつける。

 ・カフ(腕帯)の位置心臓と同じ高さになるようにする。

 ・腕の位置机の上に置き、力を抜いてリラックスさせる。

測定の手順

  1. 測定前に1~2分間、安静にする。

  2. カフは素肌に直接巻くのが理想、薄手の服なら上からでも良い。

  3. 1回の測定で2回測定し、その平均値を記録する。

  4. 測定結果は日付・時間とともに記録する。

 

この『家庭血圧』はとっても大事で、診察室血圧よりも心血管疾患のリスク予測に優れているとされています!

私も大学院で研究を進める中で、特に糖尿病や心疾患、腎臓病をもつ患者さんにとって、家庭血圧を毎日しっかりと記録することの重要性を強く感じました。血圧測定計は体重計なんかよりやや高価で、少し面倒ではありますが、心血管リスクが高い方には、なるべく測定してほしいものです!

日本人の血圧目標を裏付ける研究とは??

① SPRINT試験(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)SPRINT study

SPRINT試験は、50歳以上の高血圧患者9,361人を対象に、収縮期血圧(SBP)を120mmHg未満に厳格に管理する群と、140mmHg未満に標準的に管理する群で比較したランダム化比較試験です。その結果、厳格な降圧管理群では、心血管イベントや心血管死のリスクが有意に低下しました。この試験は、JSH2019で75歳未満の成人に対する目標血圧を130/80mmHg未満に設定する根拠の一つとなっています

② メタ解析(Sakimaら,2019)Sakimaら メタ解析

Sakimaらによるメタ解析では、19のランダム化比較試験(合計55,529例)を対象に、厳格な降圧治療と通常の降圧治療の効果を比較しました。その結果、厳格な降圧治療群(平均到達血圧131.4/76.5mmHg)は、通常治療群(140.3/80.7mmHg)と比較して、複合脳心血管イベントのリスクが有意に低下しました。ただし、全死亡率に関しては有意な差は認められませんでした。

③ STEP試験(Strategy of Blood Pressure Intervention in the Elderly Hypertensive Patients)STEP試験

STEP試験は、60~80歳の高齢者8,511人を対象に、収縮期血圧を110~130mmHgに厳格に管理する群と、標準的に管理する群で比較したランダム化比較試験です。その結果、厳格な降圧管理群では、脳卒中や心血管イベントのリスクが有意に低下しました。この試験は、高齢者における降圧目標の設定に影響を与えています。

④日本人の疫学データ

日本人約220万人を対象とした疫学研究では、血圧が高いほど10年後の心血管イベント(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動)の発生率が高まることが示されています。これらのデータは、日本人における血圧管理の重要性を裏付けています。

Long-term and recent trends in hypertension awareness, treatment, and control in 12 high-income countries: an analysis of 123 nationally representative surveys  

Global Effect of Modifiable Risk Factors on Cardiovascular Disease and Mortality

Association of Blood Pressure Classification Using the 2017 American College of Cardiology/American Heart Association Blood Pressure Guideline With Risk of Heart Failure and Atrial Fibrillation

Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension

以上の事より、血圧を良好にコントロールするためには、まず家庭血圧をしっかり測る事が大切です。家庭血圧を測るる時は、毎日同じくらいの時間に条件をなるべく揃えて測ると、より信頼度が高まります。だいたい1か月ほど記録した平均血圧が目標血圧をオーバーする場合は、早めにお近くの病院や専門医へ相談していただく事をおすすめします。

まずは基本的な血圧のお話でした。また次の機会に、もう少し詳しくお話したいと思います。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医