SGLT2阻害剤とは? ダイエット薬?(ではありません。)
前回の『GLP-1受容体作動薬』に続いて、今回の『SGLT2阻害剤』も体重が減るタイプのお薬になります。
(SGLT;Sodium glucose co-transporter;ナトリウム・グルコース共輸送体)
同じく、保険適応は主に『糖尿病』ですので、ダイエット薬としては使用できません。
お薬の名前としては、
ジャディアンス フォシーガ カナグル デベルザ ルセフィ スーグラ
といったものです。
GLP-1受容体作動薬に比べると、体重減少効果は少し控え目です。
(個人差があり、他の併用薬にもよりますが、―1kg~-3kgほどの印象です。)
ですので、比較的どのような体型の方にも使いやすい(やせ型の方でも)お薬です。
これまでの糖尿病治療薬(飲み薬)の歴史をみますと、
SU薬、αグルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、グリニド薬、DPP4阻害剤・・・
と、色々ありました。ややこしい名前ばかりですね。
これらのお薬は、『膵臓に働きかけてインスリン分泌を促す』、『肝臓や筋肉に働いて糖の取り込みを促す』、
『腸管に働いて糖の吸収を妨げる』・・など、何となく小難しい作用だったかもしれません。
その点、この『SGLT2阻害剤』は、
『尿から余分な糖をだしてしまうお薬!』、ということで、とても分かりやすく単純なお薬です。
多くの糖尿病患者さんが、『あの、おしっこから糖が出るお薬ね』と覚えてくださることも多いですね。
もう少し詳しく言うと、血液中のグルコース(糖)は腎臓にあるSGLT2の働きで、体内に取り込まれます。
このSGLT2阻害剤とは、SGLT2を邪魔してグルコース(糖)の取り込みを阻止し、尿として外に出してしまいます。
(ですので、このお薬を飲むと尿糖が増えて、尿検査で『尿糖 +++』となります。)
2014年に日本で初めて登場し、私はそれ以前の治験の段階から携わっておりました。
初めは、何と怠慢なお薬!皆さん食事制限で頑張っているのに、こんなダイエット薬みたいなもの!
尿から捨てるなんてもったいない!・・と、半信半疑でした。
こんな薬で糖尿病が治ったら、こんなにも苦労しないわ!と思っておりました。
しかし、実際使ってみると、
・HbA1cが下がる(血糖が下がる)
・体重が減る
・肝機能が良くなる
・コレステロールや中性脂肪が下がる
・血圧が下がる
など、実際の診療の中で、良い効果を少しずつ実感できました。
SGLT2阻害剤の働きは先ほども述べた通り、SGLT2という『糖の取り込み屋』の邪魔をして、尿として外に捨てるものです。
したがって、直接的に肝臓や脂肪、血圧に作用したというよりは、
尿からの糖の排泄でカロリーロス(余分な糖分が捨てられる)による二次的な効果だと考えられます。
糖が失われることで内臓脂肪や体内の水分が減り、脂肪肝やむくみの解消に繋がったということです。
さらに、このSGLT2阻害剤が世界的に注目を浴びるようになった理由があります。
それは、『大規模臨床試験』といって我々医師が治療を選択するうえで最も重要視する研究成果の一つになります。
これまでにも糖尿病治療薬の研究は長い歴史の中で、多く積み重ねられてきました。
それぞれの糖尿病薬において、血糖値を下げる効果は十分に確認されていました。
近年、糖尿病治療において最も重要視されることは、やはり将来的に命に関わる病となり得る、
『心臓病』、『脳卒中』、『腎不全』などの発症を予防することに集中しています。
これら重要な病気について、十分に発症予防効果が確証された糖尿病治療薬は、SGLT2阻害剤が登場する以前はありませんでした。
糖尿病治療を血糖コントロールを良くしても、結果的に心筋梗塞や心不全、脳卒中を起こってしまう
しかし、2015年のEMPA-REG OUTCOME試験という非常に重要な研究において、
我々糖尿病専門医に大きなインパクトを与えた結果が報告されました。
こちらの大規模な研究結果によると、世界で初めて、
SGLT2阻害剤は『①心臓病による死亡、②心筋梗塞・心不全などの発症、③全体的な死亡率を低下させる』
との結果がでました。
参考;EMPA-REG OUTCOME | 糖尿病トライアルデータベース
さらに、つい先日は将来的に腎臓を守る効果があるとして、一部の種類で慢性腎臓病の患者さんにも使えるようになりました。
これは、DAPA-CKD試験というもので、
SGLT2阻害剤は『末期腎不全や腎臓病死を抑制する』
との結果がでました。
また、一部の種類のSGLT2阻害剤において、1型糖尿病でも安全に使用できるものとして、
1型糖尿病患者さんにも使用できる、貴重な経口糖尿病病薬の位置づけとなりました。
このように、私が思っていたようなただのダイエット薬ではなく、
将来的な心臓病を予防する効果があり、また人工透析に繋がるような腎臓病の進行に対しても予防的な効果があり、
さらに、これまでインスリン治療しか選択肢のなかった1型糖尿病患者さんに対する新な光をもたらす薬となり、
今後も糖尿病治療薬の中心的存在になるスターぶりを見せています。
ただし、どの薬にもデメリットというものはつきものです。
やはりこのお薬にも副作用というものがあり、これまでにも中止された方も複数いらっしゃいます。
まず、
①尿路感染、性器感染
尿から糖が出るお薬ですが、かえって陰部に細菌感染を起こしやすいこと
特に尿道の短い女性は膀胱炎や性器感染の頻度が比較的高く、過去に膀胱炎を起こした経緯のある方は注意が必要です。
副作用の予防のために、しっかりと十分な水分を摂り、陰部を清潔に保つことが大切です。
次に、
②脱水、腎機能低下
特に夏場は脱水や熱中症に陥りやすく、これまでにも急な脱水と腎機能障害で薬を中断したケースを経験しました。
また逆に、季節の変わり目や冬でも、あまり水分を摂らないために隠れ脱水症となることもあり、十分な管理が必要です。
③皮疹
こちらはあまり経験がありませんが、薬剤により報告もいくらかありますので、
やはりこまめなフォローアップが必要です。
他にも、血糖コントロールが不安定な方で、ケトアシドーシス、
また、反応性過食症(カロリーロスの反動で空腹感が増し、過食傾向になる)
などは報告も多く、私も常に念頭におきながら治療をすすめています。
とはいえ、このSGLT2阻害剤は今やかなり広く処方されている状況にあり、比較的安全に使用できる薬剤ではあります。
SGLT2阻害剤を導入する対象の方、タイミング、併用するお薬などに関しては、個々の背景や血糖コントロール状況により違ってきます。
このあたりは糖尿病専門医へご相談頂ければと思います。
お正月で食べ過ぎの心配がある方、一度お薬の見直しについてもお気軽にご相談くださいね。
おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子
糖尿病内科専門医・指導医 総合内科専門医