初めての週1回インスリン注射!

本日1月30日に、週1回タイプの新たなインスリン製剤『インスリンイコデク(アウィクリ®)』が発売となりました。このイコデクは従来の「持効型インスリントレシーバ®ランタスXRグラルギンなど」にあたるものです。従来の持効型インスリンの作用時間おおよそ24時間ほど続くため、1日1回の注射が必要でした。この新しいインスリンイコデク(アウィクリ®)の作用時間は約1週間と非常に長く、週1回の注射で基礎インスリンを補うことができる、画期的なお薬だと言えます。今後の尿病治療において、より良い効果や患者さんの負担軽減の点で注目されています。

参考資料;独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)『アウィクリをお使いになる方へ』

 

奇跡の薬、『インスリン』

今から100年ほど前(日本でいう大正時代あたり)まで、1型糖尿病患者さんの治療の中心は、極端な糖質制限をして血糖を上げないようにする『飢餓療法』でした。この治療により重症な高血糖は免れたものの、身体はガリガリに痩せ細り、食べたいものも食べられずミイラ化していく姿で死を待つのみ。1型糖尿病は若くして命を奪われる病気でした。

1921年にカナダの外科医師であるバンティングと医学生のベストにより『インスリン』が発見されます。翌年の1922年に世界で初めて、14歳の少年(レナード トンプソン)がインスリン治療を受け、幼い命が救われました。

その後もインスリンは『ミラクル(奇跡の薬)』として多くの命を救い、1型糖尿病(のみならず2型糖尿病も)の患者さん達に希望と人生の豊かさをを与えてくれています。

 

インスリン治療の基本

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げることのできる唯一のホルモンでもあります。健康な人では、食事を摂らなくても1日中ずっと少量のインスリンが膵臓から分泌(基礎分泌)されています。食事(糖質)を摂ると血糖値が上昇し、即座に反応した膵臓が大量のインスリンを分泌(追加分泌)します。

このうち、基礎分泌を補うインスリンとして基礎インスリン(持効型インスリン)、追加分泌を補うものとして追加インスリン(超速効型、速効型インスリンなど)、と使う方法が最も典型的かと思いますが、患者さんの病態に合わせて様々な組み合わせ方をします。現在、日本では約20種類ほどのインスリン注射があり(ほとんど使われていないものもありますが)、この使い分けは、糖尿病専門医の得意とするところです。

 

この20種類のインスリンを種類を分けると、先ほどの①持効型・中間型インスリン、②超速効型・速効型インスリン、③混合型インスリン(①+②)、④配合型インスリン(①+GLP-1)に分けられます。インスリン療法は、これらのインスリンを1日1回~4回(多い方だと5回の場合もある)注射することになります。

参考;インスリン療法とは|糖尿病情報サイトDMTOWN

 

インスリンイコデク(アウィクリ®)とは?

世界で初めての週1回型インスリン製剤、「アウィクリ注 フレックスタッチ(一般名:インスリン イコデク)」とはどのようなインスリンでしょう。簡単にまとめると、以下の通りです。

  • 作用時間は約7日間続く
  • 700単位/mlと濃度が高く(従来型は100単位/ml)、1回あたりの注射量は変わらない
  • アウィクリ専用の注入器(フレックスタッチ)は、1目盛り10単位(従来型は1目盛り1単位)
  • インスリン注射前の空打ちも、1回10単位
  • 適応;1型糖尿病・2型糖尿病
  • 避けるべき例;頻回の低血糖、激しい血糖変動、高血糖緊急症、感染症、周術期、シックデイ
  • 薬価;1キット 2,081円(参考;トレシーバ 1,976円、ランタスXR(450単位) 2,078円、グラルギン 1,095円)

従来のインスリン製剤よりも注射回数が減り、患者さんの負担軽減やQOL向上、治療達成率UPにつながる事が期待できます。

 

『アウィクリ注 ®』の臨床試験、 『ONWARDS試験』

ONWARDS試験は、1型・2型糖尿病さん4,000例以上を対象としたもので、そのうち4つの試験(ONWARDS 1、2、4、6)に日本人400例以上が参加しました。これらいずれの試験でも、従来型の持効型インスリンと比べて有効性・安全性が劣らないことが証明されました。

  • ONWARDS 1試験;2型糖尿病患者984例、HbA1cの変化量の非劣性を証明[p<0.0001]
  • ONWARDS 2試験;2型糖尿病患者526例、HbA1cの変化量(トレシーバと比較)の非劣性を証明[p<0.0001]
  • ONWARDS 4試験;2型糖尿病患者582例、HbA1cの変化量(グラルギンと比較)の非劣性を証明[p<0.0001]
  • ONWARDS 6試験;成人1型糖尿病患者582例、HbA1cの変化量(トレシーバと比較)の非劣性を証明[p=0.006]

ONWARDS 1–6 trials – 2023 – Diabetes, Obesity and Metabolism – Wiley Online Library

アウィクリ® | ノボ ノルディスク プロ

 

以上の結果より、アウィクリの効果はこれまでの治療に劣らず期待できそうです。が、インスリン治療は本当に奥が深いものです。血糖値の変化、インスリン分泌量、インスリンの効き方などは、1日1日の体調や気分、気温や気候によっても変化するものだと思っています!一人一人の患者さんにぴったり合う治療を探すのはとても難しく、時間がかかるものです。今回の新しい薬、とても便利で期待できるからこそ、慎重にしっかりとその特性を肌で感じていきたいものです。毎日、インスリン注射を続けることにストレスを感じている患者さんにが一人でも、楽になってもらえたらと思っています。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医