新緑、爽やかな春の風が心地よい季節になりました。朝晩はまだ肌寒い日も多く、風邪などひかれていませんでしょうか。
2026年もいつの間にか3分の1が終わろうとしています。今年も大変寒い日々が続き、なかなか運動もできず…、3月・4月に入ると何だか忙しなくなり、自分の健康に構う暇もなく、気づけば体重が成長している・・・、という方、少なくありません。私も今年の目標は、「毎日、少しずつ運動!」と意気込んでいたのに、達成できていません。ようやく5月の連休に入るので、仕切り直して頑張りたいと思います。
そろそろ体重コントロールをしようかと思っている方、当院では肥満症に対する診療も行っておりますので、気になる方はいつでもご相談ください(ただし、肥満症に対する薬物治療に関しては、いくつかの条件があります)。今回は、2型糖尿病、肥満症に適応があり、最も減量効果が高いとされているGLP-1受容体作動薬(俗称、やせ薬…?)について、少し深堀りしたいと思います。
GLP-1受容体作動薬といえば、メディア等で一躍有名になったマンジャロ注(一般名;チルゼパチド)ですが、我々糖尿病専門医にとっては新しいタイプになります。国内初のGLP-1受容体作動薬であるビクトーザ注が登場した時、私はまだ専攻医(研修医上がり)の頃でしたが、何とも新しいユニークな薬が登場したものだ!と、大きな期待と少しの疑いを抱いていたのを思い出します。今となっては、2型糖尿病治療において、大きな役割を果たしてくれる、大変有用な存在へ進化しました。
これまでに発売されたGLP-1受容体作動薬
- ビクトーザ注(1日1回):2010年6月
- バイエッタ注(1日2回): 2010年12月
- ビデュリオン注(週1回): 2013年5月
- リキスミア注(1日1回):2013年6月
- トルリシティ注(週1回):2015年9月
- リベルサス錠(1日1回):2021年2月
- オゼンピック注(週1回): 2022年5月
- マンジャロ注(週1回): 2023年4月
- ウゴービ注(週1回):2024年2月・・・オゼンピックと同成分、適応は肥満症
- ゼップバウンド注(週1回):2025年4月・・・マンジャロと同成分、適応は肥満症
現在、主力の2剤であるマンジャロ注とオゼンピック注の違いをまとめてみます。
1. 基本構造の違い
| 商品名 | マンジャロ | オゼンピック |
|---|---|---|
| 一般名 | チルゼパチド | セマグルチド |
| 作用 | GIP/GLP-1受容体作動薬 | GLP-1受容体作動薬 |
| 投与 | 週1回皮下注 | 週1回皮下注 |
| 適応疾患 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 |
| 最大用量 | 15mg/週 | 1.0mg/週 |
マンジャロは「GLP-1にGIP作用が加わった薬」ですが、GIP作用が中枢(脳)・脂肪組織・膵臓のβ細胞(インスリン分泌)などを介して、GLP-1単独より強い体重減少・血糖改善をもたらすと考えられています。
2. 血糖値・体重への効果
直接比較で最も重要なのは SURPASS-2 です。2型糖尿病患者で、マンジャロ(チルゼパチド)5/10/15mgはオゼンピック(セマグルチド)1mgよりHbA1c低下・体重減少ともに優れていました。
肥満症領域では SURMOUNT-5 で、マンジャロ(チルゼパチド)はオゼンピック(セマグルチド)2.4mgより体重減少が大きく、72週で約20.2% vs 13.7%の減量でした。
以上より、
血糖値の低下・体重減少の強さ:マンジャロ > オゼンピック
と考えて良さそうです。
3. GIPの有無による機序の違い
GLP-1作用は、膵臓のβ細胞でのグルコース依存性インスリン分泌促進(簡単に言うと、血糖値が高くなったらインスリンが膵臓から分泌されるのをサポートする力)、グルカゴン抑制(血糖値をあげてしまうグルカゴン分泌をブロックする力)、胃排出遅延(お腹にずっと食物が残るので満腹感が続く)、食欲抑制が中心です。オゼンピックの作用がまさに、このGLP-1経路がメインの働きになります。
一方、マンジャロはGIP受容体も併せ持ちます。GIPは従来「肥満を悪化させるのでは」とも考えられていましたが、薬理学的なGIP受容体作動では、GLP-1作用と組み合わさることで食欲・体重・糖代謝に有利に働く可能性が示されています。特に中枢(脳)では、GIP受容体刺激がGLP-1による悪心・嘔吐様反応を軽減する可能性が示唆されています。
4. 消化管・中枢(脳)への影響
マンジャロ、オゼンピックとも悪心、嘔吐、下痢、便秘、食欲低下は主な副作用です。原因としては、胃排出遅延(胃の動きが悪くなる)、迷走神経・脳幹・視床下部を介した食欲抑制が挙げられています。
実際に、マンジャロの方が体重減少の効果が強い一方で、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、便秘、食欲低下)も出現しやすくなります。効果が強い分、ドロップアウト(途中で止めてしまう)率も高く、長期的な減量をめざすためには薬剤をどのようなスピード増やしていくか、食事の摂り方、便秘への対策、メンタル面でのケアも大変重要になります。
5. 腎・心血管への良い影響
オゼンピック(セマグルチド)は、心血管・腎アウトカムの独立したエビデンスが強いです(=将来的な腎臓や心臓を守ってくれる力が証明されています)。
SELECT試験では、糖尿病のない肥満かつ心血管疾患のある患者さんにおいて、MACE(心臓に関連する致命的な心血管イベント)を低下させました。
FLOW試験では、2型糖尿病と慢性腎臓病をもつ患者さんにおいて、腎臓に関するイベントや心血管死のリスクを低下させました。
Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity | New England Journal of Medicine
マンジャロ(チルゼパチド)は、SURPASS-4試験で、糖尿病腎症の指標であるアルブミン尿や腎機能の指標であるeGFRに対するポジティブなデータが示されています。ただし、オゼンピック(セマグルチド)ほどの、強い腎・心血管アウトカムに関する蓄積はまだ相対的に少ないようです。
まとめると、
| 観点 | 現時点の印象 |
|---|---|
| 血糖改善・体重減少 | マンジャロ優位 |
| 心血管アウトカムへの効果 | オゼンピック優位 |
| 腎アウトカムへの効果 | オゼンピック優位 |
| 腎保護への期待 | 両剤あり、マンジャロは今後さらに蓄積待ち |
6. デバイスの違い
マンジャロは日本ではアテオスという1回使い切りタイプのペンです。用量ごとに製剤が分かれ、2.5mgから開始し、4週後5mg、以後必要に応じて2.5mg刻みで最大15mgまで増量します。針の太さは29ゲージと、オゼンピックに比べると少し太いですが、一般的な注射や採血に用いる針よりははるかに細いものです。
オゼンピックは日本では主に2mgペンで、0.25mg開始、0.5mg維持、効果不十分なら1.0mgまで増量できます。1本のペンから複数回投与する形式です。針の太さは、インスリン注射と同様の32~34ゲージと非常に細い針を装着するため、ほとんど痛みを感じることがありません。
まとめると、
マンジャロ:1回使い切りで手技は簡単、用量ごとにペンが異なるので、用量ミスが少ない
オゼンピック:1本で2~8回使用、ダイヤルを回して用量調節するインスリンと似たシステム、針が非常に細い
という違いです。
今回のまとめ
マンジャロは「GIP/GLP-1の二つの作用により、強く血糖低下・体重減量に対する効果を発揮する」、オゼンピックは「シンプルにGLP-1作動薬として効果を発揮、安全性や心腎アウトカムのエビデンスが確立している」と言えます。ただし、臨床上ではこれらだけでは割り切れない、合う・合わない方がそれぞれいらっしゃることも事実です。15年以上、GLP-1受容体作動薬と共に歩んできた我々専門医だからわかる事、お伝え出来る事があります。もし、GLP-1受容体作動薬に関して、ご相談、質問等あれば、いつでもお越しくださいね。
では、今年のゴールデンウィークも、元気に楽しくお過ごしください。
おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子
糖尿病内科専門医・指導医 総合内科専門医