世界的にも一番に選択されるお薬

メトホルミン(商品名:メトグルコ🄬)というお薬はご存知ですか?メトホルミンを含むビグアナイド剤は1960年代に登場した、歴史の長いお薬です。現在、アメリカ糖尿病学会(ADA)、欧州糖尿病学会(EASD)、米国臨床内分泌学会(AACE)、日本の糖尿病標準診療マニュアルでは、糖尿病治療にメトホルミンを第一選択薬(まず初めに使うお薬)とするよう推奨しています。

 

過去にお話ししたSGLT2阻害剤やGLP-1受容体作動薬といった新薬が出てくる中、今でも広く使用されている理由は何でしょう?

 

メトホルミンルネッサンス

1970年代に、メトホルミンと同じ仲間であるフェンホルミンというお薬で強い副作用(乳酸アシドーシス)が出たため、この類のお薬は一時、下火になっていました。

しかしながら、英国の大規模研究であるUKPDS34(United Kingdom Prospective Diabetes Study; Lancet 1998; 352: 854-65. 参考文献)の結果が、メトホルミンの位置づけを大きく変えました。この研究を簡単にまとめると、『肥満のある2型糖尿病患者さんにメトホルミンを使って厳格な治療すると、①他の薬やインスリンを使った治療よりも合併症のリスクが減少した、②メトホルミンを使うと体重が増加しなかった。』ということです。

具体的に説明すると、10年間の追跡調査で肥満糖尿病患者において、メトホルミン群と厳格な治療群(SU剤、インスリン)とでHbA1c値の変化に差はありませんでした。しかしメトホルミン群では緩やかな治療群(食事療法など)と比べて、糖尿病関連エンドポイント(※1) 、糖尿病関連死(※2) 、全死亡がそれぞれ低下しました。また,他剤による厳格な治療群(SU剤、インスリン)と比べても、糖尿病関連エンドポイント、全死亡、脳血管障害を低下させました。また厳格な治療群では体重増加がみられましたが、メトホルミン群では体重増加が少ない結果でした。

●糖尿病関連エンドポイント;突然死、高血糖・低血糖による死亡、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳卒中、腎不全、足切断、硝子体出血、網膜光凝固、失明、白内障手術

●糖尿病関連死;心筋梗塞・脳卒中・末梢血管疾患・腎疾患・高血糖・低血糖による死亡、突然

これにより、欧米でのメトホルミンによる治療が著しく増え、メトホルミンルネッサンスと呼ばれるようになりました。

 

Legacy Effect(遺産効果)

10 年間の UKPDS 研究終了後も15 年間(計25年間)にわたって観察研究がなされ、それだけ年月が経っても効果は持続していることが示されました。 (UKPDS 80; N Engl J Med 2008; 359: 1577-1589.参考文献) つまり、2 型糖尿病患者さんにおいてメトホルミンを使った早期治療による良好な血糖コントロールは、遺産効果(Legacy Effect)として長く残ることが分かりました。

 

動脈硬化に対する効果

また、REACH Registry(Reduction of Atherothrombosis for Continued Health Registry; Arch lntern Med 170: 1892-1899. 参考文献) という研究は,日本を含む 44 ヶ国が参加、動脈硬化のある2 型糖尿病患者を対象としたものです。この研究結果より、メトホルミンを使った治療において、全死亡率,心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中のリスク低下することが示されました。

メトホルミンは、重要な副作用である乳酸アシドーシスを起こすリスクの高い心臓病、腎臓病の患者さんには使ってはいけないとされています。しかし近年の研究では、メトホルミンが乳酸アシドーシスのリスクを増加させず、総死亡の減少、心不全による入院の減少をもたらしたとの報告もあります。( Ann Intern Med 2017; 166: 191-200. Ann Intern Med 2017; 166: 191-200.参考文献)今後、さらなる研究の蓄積が望まれます。

 

メトホルミンが血糖を下げる理由

メトホルミンは糖尿病の薬の中でも少し変わった働きをお薬です。なぜ血糖を下げるか、現段階で言われていることは以下の3つです。

肝臓で糖新生(※)を抑制する

筋肉・脂肪で糖を取り込む

小腸で糖の吸収を抑制する

※糖新生:食事を摂っていない時、血中の糖を保つために肝臓から糖が作りだすこと

少し難しいですが、特にインスリン抵抗性が強いと言われる肥満、脂肪肝をもつ糖尿病の方に良い効果があるとされています。やせ型の患者さんでも体重を著しく減少させることもないので、使い方によって良い適応になるかと思います。

 

1日9錠まで服薬できるお薬

メトホルミンはとても安価(1錠 250mgで約10円)で医療経済面でも優れており、海外におけるエビデンスでの標準使用量が2,000~3,000 mg/日と高用量であったこともふまえて、2010 年からは日本でもメトホルミンを最大 2,250 mg/日まで使用できるようになりました。患者さんの血糖コントロール、副作用、他のお薬との飲み合わせ、基礎疾患などを考慮して、用量調整がしやすいお薬です。

 

 

今回は、糖尿病のお薬の中でも長い間よく使われているお薬を紹介しました。参考にしてみてくださいね。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医