妊娠と糖尿病の関係って?

 

食事を摂ると、食べ物は消化・吸収されて血中の血糖値が上がります。その後、すぐに膵臓から『インスリン』というホルモンが出て、血中の糖をエネルギーとして使ったり、筋肉・肝臓・脂肪に蓄えたりと働きます。その結果、徐々に血糖値は下がります。

妊娠すると、赤ちゃんへの栄養補給を安定させるために、胎盤から血糖値を上昇させる働きのあるホルモン(プロゲステロン、プロラクチン、コルチゾール)が産生されます。そのホルモンによりお母さんの膵臓から出るインスリンの効果が弱くなり(インスリン抵抗性)、頑張ってインスリンを出す量を増やして対応するものの、中にはインスリンを十分に分泌できないお母さんもいます。つまり、血糖値が高いままの状態が続いてしまいます。

 

十分なインスリン分泌能力のある正常の妊婦さんはインスリン分泌と抵抗性(インスリンを弱める)のバランスが取れています。

妊娠糖尿病ではこのバランスが崩れて、インスリンの力が不足している状態です。

 

妊娠糖尿病とは?

妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見された糖代謝異常です。なお、妊娠前から既に糖尿病と診断されている場合や、妊娠中に“明らかな糖尿病”と診断された場合は妊娠糖尿病には含めませんが、これらは妊娠糖尿病より重度の状態ですので、血糖をより厳密に管理する必要があります。

妊娠糖尿病|公益社団法人 日本産科婦人科学会

 

妊娠糖尿病は診断基準はが2010年に大きく変化し、世界共通の診断基準が提唱されました。そこでは『妊娠糖尿病』は、「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常である」と定義され、『妊娠時に診断された明らかな糖尿病』は含めないことになりました。このため妊娠糖尿病では、お産が終わって、6-12週間後に再びぶどう糖負荷試験(OGTT)を行って、正常型、境界型、糖尿病型に分類します。妊娠時に診断された明らかな糖尿病の人も産後に耐糖能の再評価が必要となります。

一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

 

妊娠中の糖尿病にはいくつかのタイプがあります。

もし、妊娠中に血糖が高いと言われたら、

まずは、あなたのタイプがどれにあてはまるかを知ってください。

 

2008年に行われた、血糖と母体・胎児の予後との関係をみた世界的な研究(HAPO study)の結果から、より安全な妊娠、出産を可能にするために、妊婦さんの糖尿病についての診断基準が大きく改訂されました。

HAPO | 糖尿病トライアルデータベース

 

  • 以前より厳しい基準であり、今まで妊娠糖尿病の基準に当てはまらなかった妊婦さんも対象となりました。(7~4.4倍増加)
  • 妊娠のよって糖尿病が判明した妊婦さんは、以下の3つに分けられます。

 

  • 妊娠糖尿病:妊娠中に初めて発見された糖代謝異常(糖尿病には至っていない)
  • 妊娠時の明らかな糖尿病:妊娠中に初めて発見された糖尿病
  • 糖尿病合併妊娠:すでに診断されている1型・2型糖尿病

 

どのタイプにおいても、安心して妊娠・出産の時期を過ごすために、

正しい知識を身につけ、良好な血糖コントロールを得ることが大切です。

 

このうち3つのうち、糖尿病合併妊娠の場合は、あらかじめ主治医の先生と安全な妊娠に向けて良好な血糖コントロールを目指すような治療を行い(計画妊娠)、条件がクリアできれば妊娠許可となります。

妊娠糖尿病と妊娠時の明らかな糖尿病は、妊娠後に初めて判明するため、速やかに適切な対応が必要です。

 

妊娠糖尿病について、以前は「妊娠中だけ血糖が高くなり、産後は正常に戻る」と言われていましたが、ここ最近の研究の積み重ねにより、決してそうではないことが分かってきました。妊娠糖尿病になりやすいタイプとして、『家族に糖尿病をもつ人がいる、肥満、運動不足、高齢、高血圧、高脂血症』といった、一般的な糖尿病になりやすい人と同じ特徴があります。ですので、妊娠糖尿病は、妊娠によってたまたま血糖が高くなってしまった、というわけではなく、糖尿病の予備軍で将来的に糖尿病へ進行する可能性が高いお母さんが、妊娠によってあらわになった、との考え方に変わっています。

妊娠糖尿病の診断がなされた場合、妊娠前や妊娠中の母の血糖コントロールが、妊娠合併症や産後の母児への長期的な合併症に影響を与える可能性があります。

 

 

妊娠糖尿病によって起こりうるトラブルとは?

①妊娠中の合併症

お母さん側;流産・早産、妊娠高血圧症候群、帝王切開、尿路感染症、性器感染症、

赤ちゃん側;胎児機能不全、胎児死亡、過体重児、巨大児、胎児発育不全、新生児低血糖、新生児高ビリルビン血症、新生児低カルシウム血症、多血症、新生児呼吸窮迫症候群、肥厚性心筋症

などがあげられます。

 

②将来的な2型糖尿病への進展

妊娠糖尿病と診断されたお母さんは、10年後までに2型糖尿病を発症するリスクが高い事が知られています。

 

③赤ちゃんの成長障害

HAPO研究において、妊娠糖尿病と診断されたお母さんから生まれた赤ちゃんは、将来的に肥満や糖尿病になりやすいことが明らかとなっています。

先天奇形・・・妊娠初期(4週~9週)で胎児のいろいろな臓器が作られます。HbA1c 7%、または空腹時血糖値が120mg/dlを超える場合、先天奇形のリスクが高くなる可能性があるといわれています。奇形防止のためには、リスクファクターをもっている人では必ずスクリーニングを受け、血糖の異常があれば前もって計画妊娠することが大切です。

 

巨大児など・・・お母さんの高血糖は胎盤を通って赤ちゃんに移動し、赤ちゃんの膵臓を刺激して高インスリン血症(過剰にインスリンを分泌する状態)となります。インスリンは赤ちゃんにとって強力な成長因子の一つなので、巨大児となってしまいます。また、内臓の発達が未成熟となり、呼吸障害や高ビリルビン血症や低カルシウム血症を生じます。特に赤ちゃんがどんどん大きくなる、妊娠中期、後期に高血糖となると、赤ちゃんが平均よりも大きくなり、難産となったり発育遅延が生じたりすることがあります。

 

末原節代, 和栗雅子他, 当センターにおける糖代謝異常妊婦の頻度と先天異常に関する検討, 糖尿病と妊娠, vol.10(1), 2010, pp.104-108

 

妊娠糖尿病の診断方法は?

 

 

①妊娠糖尿病と診断する方法

外来にて、75gブドウ糖負荷試験を行います。

・空腹時血糖92mg/dl以上

・1時間値180mg/dl以上

・2時間値153mg/dl以上

のいずれか一つを認めれば、妊娠糖尿病と診断します。

 

②妊娠時の明らかな糖尿病と診断する方法

・空腹時血糖値≧126mg/dL

・HbA1c値≧6.5%

のいずれか一つを認めた場合に診断します。

 

③糖尿病合併妊娠と診断する方法

・妊娠前にすでに診断されている糖尿病

・確実な糖尿病網膜症があるもの

 

妊娠中に、かかりつけの先生から『血糖値が高い』と言われた場合は、なるべく早めに糖尿病専門医を受診するようにしてください。(通常、必要があれば産婦人科の先生から専門医へ紹介されるケースが多いです。)

 

そうでなくても、

①妊娠中の血糖値が心配

②体重が増えてきて(体重が減ってきて)、食事管理が心配

③家族に糖尿病の人がいるから心配

④前回の妊娠中に糖尿病や高血圧の診断を受けたので心配

⑤妊娠中の血糖値を連続してみてみたい(リブレ)

⑥これから妊娠を考えているけれど、糖尿病や高血圧のコントロールが心配

 

など、ささいな事でも構いませんので、何かあればいつでも相談してくださいね。

妊娠中は、お母さんの身体がドラマティックに変化します。

正しい知識を得て、不安になりすぎず、無事に出産できるようにゆっくり準備しましょう。

 

次回は、妊娠糖尿病の治療や日常生活の注意点などをお話します。

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医