前回は、妊娠と糖尿病についてお話しました。

詳しくはこちらを参照ください。→妊娠と糖尿病のお話 Vol.1 

 

もし、妊娠中に血糖値が高いと言われたら?

妊娠33週ごろの健常妊婦さんの平均血糖値は、空腹時血糖値=71mg/dL、食後1時間の血糖値=109mg/dL、食後2時間の血糖値=99mg/dLであった、との結果が報告されています。これは、健常人(妊娠していない人)の平均血糖よりも低くなっています。

また正常妊婦さんでは、妊娠初期から後期にかけて随時血糖値(食前・食後によらず測定した血糖値)の平均も80mg/dl前後ととても低いであることが分かっています。

 

出展;日本内科学会雑誌 第85巻 第4号  妊娠時の診断と治療 大森 安恵先生→参考文献

 

これらの結果の積み重ねから、妊娠糖尿病の方の血糖の目標値が定められています。

 

 妊娠中の血糖:空腹時血糖(朝食前) 100mg/dl未満

        食後1時間値     140mg/dl未満

        食後2時間値     120mg/dl未満

 

なかなか厳しい目標ですが、母児の健康、合併症予防のためには、計画的な妊娠と、妊娠中の厳格な血糖コントロールがとても重要です!

妊娠が進むにつれて、血糖値は上昇する傾向にあります。(インスリン抵抗性が増すため。)

妊娠中は、日々の血糖値を自分で測定し、その値を見ながら治療を調整していきます。

食事、運動でコントロールが難しい場合は、インスリンを用いて治療を行います。

産後も妊娠を予定している場合は、糖尿病になる可能性があるので、食事、体重増加など注意が必要です。

 

実際の治療のすすめかた

今回は、特に妊娠中のみ血糖値が上がってしまう『妊娠糖尿病』についてお話します。

※すでに糖尿病と診断されている『糖尿病合併妊娠』や、(おそらく妊娠前から糖尿病であったけれど)妊娠中に初めて判明した『妊娠中の明らかな糖尿病』に関しては、より厳格な治療が必要となります。

 

  • 自己血糖測定

妊娠糖尿病と診断されたら、妊娠中の血糖値をしっかり把握することが大切です。

血糖は一日の中でも大きく変動し、個人差も大変大きいものです。血糖を適切にコントロールするためには血糖の動きをチェックする必要があります。血糖自己測定器を用いて一日の血糖の変化を詳しく知ることにより、食事・運動・薬物療法を適切に調整し、理想的な血糖値により近づけることができるようになります。

毎食前(3回)・毎食後2時間(3回)・寝る前、の計7回測定しますが、生活スタイルや血糖コントロール状態によって決めていきます。

 

食後の急な高血糖や低血糖が疑われる場合、より詳しく持続的に血糖値をみていきたい場合は、14日間連続して血糖が測定できるリブレを使用する場合もあります。

 

  • 治療法

妊娠中の糖尿病の治療も、基本は食事と運動です

それでもコントロールがうまくいかない時は、お薬(妊娠中はインスリン注射のみ)で治療を行います。

インスリンはヒトの膵臓から分泌されるホルモンで血糖を下げる作用があります。一般的に用いられている糖尿病の飲み薬は、まだ赤ちゃんへの安全性が確立されたものはないため使用できません。上で示した血糖を目標にしながら、インスリン量を調整します。

 

★食事療法★

身長、妊娠時の体重、妊娠週数に応じてカロリーの設定をします。

食後の血糖上昇を抑えるための方法として、血糖を上げやすい、ご飯、パン、麺類などの主食(炭水化物)の量を調整します。

食後血糖が高いようなら1日4~5食の分割食へ切り替えます。

ポイントは、控えめな炭水化物良質なタンパク質(魚、大豆、卵、赤身肉、乳製品など)をしっかり、③野菜や海藻、きのこなどの食物繊維はいくらでもOK、④味付け(塩分)は控え目に、⑤なるべく和食を心がける、です。

 

・・・参考・・・

『日本人の食事摂取基準(2020年版)』での一般妊婦での推奨量を取り入れ

・摂取総カロリー;目標体重×30kcal

・妊娠初期;+50kcal  妊娠中期;+250kcal  妊娠後期;+450kcal

 

妊娠前体格 BMI kg/m2 体重増加の目安
やせ < 18.5 12-15kg
標準 18.5-25 10-13kg
軽度肥満 25-30 7-10kg
高度肥満 ≧30 個別対応

 

 

★運動療法★

・運動前にメディカルチェックを受け、どの程度の運動が可能かどうかを決定する。

・運動前後に血圧、脈拍、血糖を確認する。

・息がはずむぐらいのウォーキングやストレッチ等が望ましい。

 

妊娠糖尿病の妊婦さんに対する運動に関しては、まだしっかりと確立されたものがありません。妊娠の経過や週数、体調などによっても左右されますので、無理のない範囲で、安全な環境下で、ウォーキングやストレッチ、軽い筋トレなどを取り入れましょう。

運動可能な条件としては、以下が挙げられています。
1)後期流産・早産の既往がないこと.
2)偶発合併症,産科合併症がないこと.
3)単胎妊娠で胎児の発育に異常が認められないこと.
4)妊娠成立後にスポーツを開始する場合は,原則として妊娠 12 週以降であること.
5)スポーツの終了時期は,異常が認められない場合には,特に制限しない.

出展;妊婦スポーツの安全管理基準(2019)(日本スポーツ臨床医学会,2019)→参考

 

★薬物療法★

インスリンは胎盤を通過しないため、妊娠中はインスリン治療のみが適応となります。

まずは食後の血糖値を下げるため、食事に合わせた1日3回注射(追加インスリン)から始めます。食前血糖(空腹時血糖)も高い場合は、さらに持効型インスリン(基礎インスリン)1回注射を追加する場合もあります。

1日4~5回注射でもコントロールが難しい場合は、(非常に稀ですが)インスリンポンプへ移行する場合もあります。

 

 

 

出産後はどうなるの?

 

妊娠糖尿病と診断された方は、そうでない人に比べて将来的に糖尿病を発症する可能性が7倍も高くなると言われています。

そのため、出産後も定期的に採血検査などでチェックする必要があります。

 

● 妊娠糖尿病の方:産後の3~6か月健診で75gブドウ糖負荷試験(詳しくはこちら→糖尿病について)を行います。

→境界型・糖尿病型であれば、糖尿病専門医の元でフォローアップ

→正常型であれば、年に1回の健診や受診で経過観察

 

● 糖尿病合併妊娠の方:定期的な通院継続が必要です。

 

また、授乳期は消費量が増えるため食事カロリーを増やす必要がありますが、授乳が終了した後は摂取カロリーを妊娠前まで戻さないと、急な体重増加の危険があるため注意が必要です。

 

以上、妊娠と糖尿病についてのお話でした。

 

私も妊娠・出産を経験し、やはり妊娠中は食事制限があるにも関わらず、血糖値が上がりやすいことを経験しております。不安や心配、ストレスも多い毎日かと思います。ただし、妊娠には期間があります!長いようで短い10か月間、お母さんと赤ちゃんのためにも、前向きに安心して出産できる準備を頑張りましょう!

 

まだまだ書き切れていない情報がありますので、いま妊娠中の方、これから妊娠を考えておられる方、妊娠糖尿病と言われたことがある方、何か不安や疑問点があれば、いつでもご相談くださいね。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医