こんにちは。

私は大学院時代に、主に糖尿病と高血圧(特に家庭血圧)に関する研究を続けてまいりました。

冬になるとほぼ、必ず上がってくる血圧。

メディアでは様々な噂や誤情報がありますが(血圧は180mmHgまで大丈夫とか、降圧剤は飲まなくてよいとか)、

現時点までに日本や世界において蓄積された、信頼ある情報を少しずつ共有します。

 

 

血圧変動とは?

 

”いつもこんなに高くないんですが・・”

”病院にくると必ず上がります・・・”

”今日は急いできたのでつい・・”

”寒くなると、毎年ダメですね・・”

 

このようなお話を日頃からよく耳にします。

 

実は、血圧は決して一定ではなく、1日に10万回ほど変動します!

(参考;狩尾 七巨 先生, Hypertension 65:1163-1169,2015 高血圧治療ガイドライン2019

 

季節によって、日によって、時間によって、

さらには1拍1拍の心拍ごとに、血圧は絶えず変化し続けているのです。

 

ただし、若年で柔軟でしなやかな血管の場合、血圧は低く変動も小さくなります。

加齢に伴い血管が硬くなると、血圧は上がり変動も大きくなってきます。

 

そして、たとえ家庭で測った血圧が正常であったとしても、

病院で測った時の最高血圧が20 mmHg上がると、心血管病による死亡リスクが2倍に増える

と報告されています。

 

診察室で測定した時の最高血圧が120mmHgの人に比べて、140mmHgの人は2倍、160mmHgの人は4倍、

心血管病で亡くなる可能性が高かった、という結果です。

参考;CALIBER研究

 

『たまたま病院で測った血圧が高かっただけ』、というのも、何度もくり返すようなら無視はできません。

 

 

白衣高血圧は問題ない?

 

『白衣を見ると、緊張して血圧が上がる』、との意である『白衣高血圧』ですが、

以前は精神心理的は高血圧であり、それほど問題はないとされていました。

しかしながら、最近の6.3万人を対象とした大規模な研究(スペイン・ナショナル多施設ABPMレジストリー)において、

白衣高血圧は決して良性の高血圧ではないとの結果がでています。

参考;診察室および自由行動下での血圧測定値と死亡との関連 ( The New England Journal of Medicine)

 

白衣高血圧には、

①病院の環境にストレスを感じて起こる『精神心理性白衣高血圧

②肥満、メタボリック症候群により交感神経が活発になる『メタボリック白衣高血圧

が考えられ、このうち②については病院でなくとも血圧サージ(急な血圧上昇)が起こりやすいタイプです。

 

①のタイプにおいては、全くの正常血圧とは言えず、日頃から血圧チェックが必要と考えます。

②のタイプに関しては、心血管病リスクとなる他の条件もお持ちのため、積極的な治療が必要となる場合があります。

 

 

病院で測ると血圧が高い方、冬になると血圧が上がる方は、

・家庭での血圧は朝も晩も安定しているかどうか、

・血圧以外に心血管のストレスとなる因子(肥満、喫煙、糖尿病、高脂血症、過食、運動不足、アルコール多飲)がないかどうか

チェックしてみてください。

もし気になるポイントがあれば、血圧はもう少ししっかりケアしてあげた方が良いと思います。

 

高血圧を放置すると認知機能が低下する・・

 

『高血圧は認知機能低下の危険因子である』との研究が、米国心臓学会(AHA)から発表されました。

この研究では、ブラジルの7,000人以上において、血圧と認知機能(記憶、言葉の流暢さ、注意力、集中力など)について分析されました

 

さらに、降圧薬を服薬しておらず、血圧が121〜139mmHg/81〜89mmHgの間の人(それほど悪くない血圧ですが…)であっても、認知機能低下が加速しやすいという結果でした。(米国では血圧120/80mmHg以上は血圧高め、となります。)

 

本研究の結果を受けて、

『若年で始まった高血圧では、認知機能に対する悪影響はより重大だと予想していたが、実際には中年期以降に発症した場合でも認知能力の低下と関連していることが分かった』

『成人期のあらゆる年齢で、高血圧を効果的に治療することで、認知能力の低下が進行するのを軽減・防止できることも分かった』

とコメントされています。

参考;Hypertension, Prehypertension, and Hypertension Control | Hypertension (ahajournals.org)

 

この研究において、我が国とは人種や生活習慣も違うので、同じように当てはまるかはしっかりした検証が必要ですが、

高血圧のコントロールで認知症が予防できるのなら、貴重なデータです。

 

認知症を予防するために大切なこと=心臓を守るための習慣

 

世界において、心臓病による死亡者数は、過去30年間で66%増加しました。

それに対して、アルツハイマー病などの認知症による死亡者数は、184%も増加しているそうです。

 

認知症を予防するうえで大切なことは、

①血圧をコントロールする

②糖尿病のコントロールを良好にする

②健康的な体重を維持する

④健康的な食事をする

⑤運動を習慣として行う

⑥タバコを吸わない

 

これはすべて、心血管病を予防する基本的な習慣としてよく広く知られている事です。

中高年以上の年代になると、すべてのポイントで自信を持てる方は多くはないかと思います。

 

血圧が少し高くても、多少、脳や心臓にストレスがかかっても、特に症状はありません。

ですが、10年後、20年後のご自身の健康をを守るため、健康寿命を延ばすために、日々の努力は必ず良い結果を与えてくれます。

 

2022年、もう1か月が経ってしまいましたが、

今年の目標の一つに『心臓・脳にとって良い習慣』としてもらえると嬉しいです。

 

皆さまが元気に過ごされることは、本当に私達の幸せでもあります。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医