新しい2型糖尿病治療薬「マンジャロ®皮下注」

 

2022年9月26日、2型糖尿病の治療薬としてGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ®皮下注」が製造販売承認を取得しました。

  • グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の二つの受容体に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬
  • 長時間(1週間)作用し、空腹時および食後の血糖値を改善させる
  • オートインジェクター型注入器の週1回皮下注射によって投与(オゼンピック注やトルリシティ注と同様)

 

マンジャロ注が承認された背景に、2つの国内第Ⅲ相臨床試験(SURPASS J-monoⅰ、SURPASS J-comboⅱ)と2つの国際共同試験(SURPASS-1ⅲ、SURPASS-5ⅳ)の結果があります。

  • SURPASS J-monoⅰでは、投与52週時までのHbA1cの平均変化量について、トルリシティ注0.75 mgと比べてマンジャロ注5 mg、10 mg、15 mgの優越性が検証されました。またSURPASS J-comboⅱでは、マンジャロ注5mg、10 mg、15 mgを1つの経口薬と併用した場合の安全性・有効性の検証がされました。

現在、HbA1cの低下や体重減量効果に優れる2 型糖尿病治療薬として主軸に用いられているGLP-1 受容体作動薬は、2010 年に日本で処方可能となりました。現在、ビクトーザ注、トルリシティ注、オゼンピック注等がよく使用されております。

血糖依存的なインスリン分泌促進↑作用、グルカゴン分泌抑制↓作用、胃内容物排出抑制↓作用により高血糖を改善させ、また食欲抑制↓作用もあるため、体重減少効果も十分に期待できるものです。

このGLP-1 受容体作動薬は、心疾患リスクの高い2型糖尿病患者さんにおいて心血管疾患(狭心症や心筋梗塞)の発症や腎機能悪化を予防できるということが大規模臨床試験で示されました。

そして今回は新たに、GLP-1 受容体に加えてGIP 受容体にも作用するGLP-1/GIP 受容体作動薬が発売されることになりました。

インスリンとグルカゴン

インスリンは膵臓のβ細胞というところから分泌されるホルモンです。膵臓にあるβ細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。インスリンは全身の細胞にグルコースを取り込み、肝臓や脂肪細胞へグルコースを貯蔵させる作用があります。食事を摂ると血糖が上がり、その刺激を受けて膵臓からインスリンが分泌され、インスリンの働きで血糖が下がり安定します。逆に絶食が続いたり運動したりして血糖値が低下すると、膵臓のα細胞からグルカゴンというホルモンが分泌されます。グルカゴンはインスリンとは反対に、肝臓に貯蔵されているグリコーゲンをグルコースに分解して血糖値を上昇させます。他にも副腎からアドレナリンコルチゾールといったホルモンも分泌され、血糖値を上昇させます。ヒトの体はこうしたインスリンとグルカゴンがバランスよく作用する仕組みが備わっているため、安定した血糖値が得られます。

 

GIPとGLP-1

上記のとおり、血糖値を上げるホルモンはいくつか存在しますが、血糖値を下げることの出来るホルモンは唯一インスリンだけです。慢性的に血糖値が高い状態が続いている糖尿病患者さんの治療において、インスリンはとても重要な役割を担っています。インスリンの分泌を促進させる物質に「GIP」や「GLP-1」といったホルモンがあります。いずれも食事を摂取した後、食べたものが小腸を通過する時に分泌されるホルモンです。それぞれの働きはこちらです↓。

 

Baggio, L. L., Drucker, D. J. : Glucagon-like peptide-1 receptor co-agonists for treating metabolic disease.Mol Metab, 2020

 

 

「マンジャロ®皮下注」について

今回の新薬マンジャロ注はGIP/GLP-1受容体に対する作動薬で、特にGIPに対する作用が強いとされています。また、GIPとGLP-1とがお互いに作用を補い合うことで、従来のGLP-1受容体作動薬よりもさらに高い効果が得られる可能性があります。マンジャロのGIP/GLP-1作用による、血糖降下作用および、食欲減退や満腹感亢進による体重減量作用が大いに期待されています。

 

マンジャロ注の投与方法ですが、

  • 週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量
  • 週1回5mgを維持用量とし、皮下注射
  • 効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量可能、最大用量は15mgまで

 

副作用としては、従来のGLP-1受容体作動薬と類似しています。

  • 5%以上の頻度;悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退
  • 重大な副作用;低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)

 

主な副作用は食欲低下で,約半数に認められたとのことです。こちらは副作用でもあり体重減量につながる効果でもありますが、安全性についてはより長い目でしっかりと見極める必要があります。

2型糖尿病患者さんの血糖コントロール、体重減量に関しては、既存のGLP-1 受容体作動薬以上の効果が期待できる可能性があります。また、心血管病や腎臓病への影響についてもGLP-1受容体作動薬と同等の効果が得られるか、今後つづくであろう研究報告を待ちたいところです。

また新しい情報が分かれば発信してまいります。

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医