子宮頸がんで失う若い命を救うために

 

日本では、毎年約11,000人(75人に1人)もの女性が新たに子宮頸がんと診断され、約2,900人(300人に1人)が子宮頸がんにより命を落としています。子宮頸がんの発症年齢は、妊娠・出産にとってとても大切な20歳代から30歳代にピークを迎えます。

子宮頸がんは、早期に発見できれば治癒に結びつきますが、ごく早期のものを除いては子宮摘出(妊娠できなくなる)が必要となることがあります。他のがんと同様に少しずつ進行するため、発見が遅くなると治療が難しくなります。

 

ごく初期の早期がんであれば子宮を残すこと(円錐切除除術)も可能ですが、その場合も流産・早産のリスクを高めたり、将来の妊娠・出産に影響が出たりする可能性があります。一方、進行がんで見つかった場合は、子宮や卵巣をすべて摘出し、放射線や抗がん剤治療などが選択されます。これらの治療で救命できたとしても、妊娠できない、尿がうまく出ない、足のリンパ浮腫、女性ホルモン欠落症状など、若くして様々な後遺症で苦しむ患者さんもおられます。

参考;子宮頸部:国立がん研究センター がん統計

 

多くの未来ある若い世代が、子宮頸がんで苦しむことのないように、命を落とすことのないように、

産婦人科や小児科の先生方だけにとどまらず、我々内科医も含めてより広く働きかける必要があると考えます。

 

  ・子宮頸がんワクチン接種率をあげること

  ・定期的ながん検診をすすめること

  ・子供たちに年齢に合わせた性教育を施すこと

  ・親世代へ正しい知識や情報について啓蒙すること

 

これらがうまく進めば、大きな予防効果が得られるでしょう。

 

 

 

HPVワクチンの積極的勧奨再開について

 

2021年11月に、日本産科婦人科学会および日本婦人科腫瘍学会よりお知らせがありました。

 

11月12日に開催された厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)において、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的接種勧奨の差し控えを終了することが結論づけられました。今後、HPVワクチン接種の積極的勧奨が再開されることになります。HPVワクチンは、WHOが15歳までに90%以上の女子が接種することを目標としている国際的に効果と安全性が確立されたワクチンです。今後は、エビデンスの整理とともに、接種後に生じた症状に苦しんでおられる方々への支援策も含め、これらの問題を解決しながら、HPVワクチン接種体制をさらに充実させ、国民のワクチンへのご理解が得られるように努力して参ります。

参考;公益社団法人 日本産科婦人科学会 ,  公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 

 

 

積極的勧奨の差し控えがなされた経緯

 

2013年4月に子宮頸がんワクチンは小学6年生~高校1年生の定期接種に追加されました。しかし、ワクチン接種後に体の不調、痛みやしびれなどを訴える女性が相次ぎ、2か月後には国より積極的な接種を控える流れとなりました。

その後、イギリスでの研究より12歳~13歳のワクチン接種者で子宮頸がんになるリスクが87%減ったとの報告があり、日本での副反応発生率は0.5%未満であったことが分かりました。

厚生労働省の専門家部会は「ワクチンの成分によって神経や免疫などに異常が起きているとは考えにくく、接種の際の不安や痛みなどがきっかけで症状が引き起こされた可能性がある」との見解を発表しました。

子宮頸がんワクチンの接種の積極的な呼びかけを中止した8年余りの間に、公費で接種できる年代が過ぎた女性たちは約260万人いると分析されています。この世代の女性のおよそ7割がワクチンを接種していたら、子宮頸がんの発症を60%防ぐとした場合、将来子宮頸がんになる人を2万2000人減らすことができ、5500人が子宮頸がんで亡くなるのを避けられたとしています

 

令和3年度の接種対象者

 平成17年4月2日~平成22年4月1日生まれ(小学校6年生~高校1年生相当)の女子

 

過去に積極的な勧奨を受ける機会を逃した方

平成9年4月2日~平成18年4月1日生まれの女性

令和4年4月1日から開始される制度によると、令和7年3月31日までは国の定めた救済対象期間となります。

※ 令和4年4月1日以前に接種した場合は全額自己負担となります。

 

 

子宮頸がん、どんな病気?

 

子宮頸がんの発症には、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が関わっています。子宮頸がん患者さんの 95%以上は、HPV が原因であることがわかっています。HPVは女性の50%以上が生涯で一度は感染すると推定されていますが、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しても約90%の確率で、2年以内にウイルスは自然に排除されるとされています。しかし、ウイルスが自然に排除されず、数年から数十年にわたって持続的に感染した場合には、がんになることがあると報告されています。主に性交渉によって感染するため、予防のためには性交渉を経験する前にワクチンを接種することが最も有効です。

 

当院でも、接種機会を逃した方に対する救済制度をふまえて、今年の4月から積極的にHPVワクチン接種をすすめる予定です。

対象年齢で接種希望される方は、令和4年4月1日以降の接種を予定しておいてください。

 

若い世代の女性たちが、健やかに永く元気で過ごせるよう、心から願います。

 

 

おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子

糖尿病内科専門医・指導医  総合内科専門医