キレイな血糖値ってどのくらい?
まずは10時間以上絶食を条件とした、空腹時血糖のお話です。
(健診等の診断には、基本的に一番安定している空腹時血糖が用いられます。)
空腹時(10時間以上絶食)の血糖値は70〜90mg/dLです。
空腹時の血糖値が100mg/dLを超えると、“少し高め“といわれます。
空腹時の血糖値が110mg/dLを超えると、“糖尿病予備軍“です。
空腹時の血糖値が126mg/dLを超えると、“糖尿病型“となります。
以前、空腹時血糖110mg/dlまでは正常〇とされていました。
しかし、空腹時血糖値100〜109mg/dLの人は将来的に糖尿病への移行しやすい、実は隠れ糖尿病予備軍である頻度が高い、ということがわかってきました。2008年に日本糖尿病学会より、「空腹時血糖値100mg/dl~109mgは正常ではなく、“正常高値”とすること」が公表されました。
正常高値の人は病院を受診して、
● できればブドウ糖負荷試験(75gOGTT)*をして、より詳しく血糖の状態をみましょう。
(*甘いサイダーを飲んで、飲む前、1時間後、2時間後と血糖の変化を観察する検査)
● 個々の状況に合わせて、適切な生活習慣や肥満への取り組みをしっかり行いましょう。
といった事がすすめられています。
当院でも、きちんと条件を整えた75gOGTTが可能です。血糖値が心配な方は、いつでもご相談ください。
詳しくは、こちらのページを参照ください→糖尿病 – おおやぶ内科・整形外科 (oyabu-clinic.or.jp)
全く症状もないし、少し血糖が高いくらいなら大丈夫?
参考にするのは、JPHC Diabetes Study(Endocrine Journal 2010, 57 (7), 629-637)という2200人の日本人を対象とした研究です。
この研究によると、空腹時血糖値が100〜104mg/dLでは10%ほど、105〜109mg/dLでは30%ほどの人が、将来的に糖尿病を発症するとの結果でした。従来の、「110mg/dlを超えてから気をつける」のでは遅いのではないか、との考えがでてきました。ただし、糖尿病の発症に影響するのは空腹時血糖値だけではないので、先ほども述べたブドウ糖負荷試験などを用いて、より詳しく状態を把握して対応することが大切です。
また空腹時血糖値であっても、直近の食事内容や体調、ストレス等に影響される場合もあるので、できれば体調を整えて別の日に再検査することをおすすめします。
さらに重要な食後高血糖、なかなか正確にキャッチできません!
特に病院にもかかっていない方は、健診以外で血液検査をすることは少ないかと思います。
先ほど述べたように、健診での検査は基本的に空腹時血糖が測定されますが、実は血糖値は波のように常に変動しています。健診で測定されるものにHbA1c値というものもありますが、こちらはおよそ2か月間の血糖値の平均を示すもので、具体的な血糖変動までは分かりません。例えば、同じHbA1c=6.0%であっても、血糖変動が小さい人もいれば、波が大きい人もいます。
糖尿病の方(予備軍を含めて)は食後の血糖値が高くなりやすく、血糖変動も大きくなります。
同じHbA1c値であっても、この変動が大きいタイプの人は要注意です。
食後高血糖がなぜ重要なのでしょうか。
参考にするのは、DECODA研究(Diabetologia 2000; 43: 1470-1475.)という糖尿病に関する大きな研究です。
38,000名のアジア人において、空腹時血糖値に関係なく、食後2時間血糖値が高くなればなるほど死亡率が増加することが分かりました。
さらに、日本人のみでみた研究であるFunagata Study(Diabetes Care 1999; 22: 920-924.)をみても、「食後2時間血糖値が140mg/dlを超えた場合、空腹時血糖値がどうあれ、心臓血管系による死亡率が増える」ことが示されました。
つまり、空腹時血糖のみを検査しても分からない食後高血糖の危険が潜んでいることを知っておいてください。健康な方であっても、空腹時血糖のみならず、一度はHbA1c値、食後の血糖値を測る機会を作ってほしいと願っています。
血糖変動には、食事だけではなく、運動、入浴、薬、ストレス、ホルモンバランス、筋肉や内臓脂肪の量、膵臓や肝臓、腎臓の働き・・・など様々なことが絡み合って影響します。これらのことをしっかりと理解したうえで、個々に合わせた対応を考える必要があります。
糖尿病診療に丁寧な問診が欠かせないのは、このような様々な条件を全て教えて頂きたいからです。
なぜ、血糖変動が大きいと心血管病による死亡率が高くなるのでしょう?
1日の血糖変動が大きい人は、動脈硬化(血管が硬くなり、血流が悪くなったり詰まりやすくなったりする)が進んでいることがわかりました。1日の血糖変動が良好(70mg/dl~180mg/dL)な人と比べてより血糖変動が大きい人は、血管の硬さを測定するbaPWVという指標が高くなりました。血糖の上がり下がりが激しいタイプ(血糖スパイク)では、血管にかかるストレスが大きく、血管が傷みやすく老化しやすいことが分かっています。
糖尿病は、血糖値が高いだけでは痛くも痒くもない病気ですが、ひとたび合併症を引き起こすと身体に様々な不調がでてきます。これは何とか避けたいものです!
合併症は、予備群の段階から水面下で静かに確実に進行しています。
未病のうちからご自身の血糖値を知り、正常値を維持しておくことが大切です。
おおやぶ内科・整形外科 副院長 大藪 知香子
糖尿病内科専門医・指導医 総合内科専門医